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北陸新幹線延伸の憂鬱

5月に東京から福井へ行ってきたのは前回までに書いたとおり。往路については、今回延伸した北陸新幹線を利用して東京から一本で行った。確かに便利なのは実感できたのだが、果たして「1本で行けること=便利になった」と手放しで喜んでいいものか、問題提起をしておく。以降の話は、復路で金沢回りの北陸新幹線を使わず、米原回りを取ることになった経緯そのものである。

あらかじめ断っておくが、この記事は、直通運転すれば何でも便利だというのは短絡的ではないかい?と敢えて問題提起することが主旨である。今回の延伸で便利になった面があることは十分に認めるが、線路が繋がることと、使いやすいかどうかは、また話が別である。つまり、ハード面が整っても、それをどのぐらい活かせるかはソフト面(ダイヤなど)次第である。

さて、東京から福井まで鉄路で行く場合には、東海道から米原を回るルート、北陸に抜けて海沿いに金沢を回って南下するルートの2つが主要ルートであった。それぞれのルートについて、今回の敦賀延伸の前後の変化を下の図にまとめた(地図と時間は「だいたい」です)。

北陸新幹線の延伸以前は、米原回りも金沢回りも乗り換え1回、所要時間3時間30分程度と大差なかった。なので、好みとか、新幹線へのアクセス面など、いろいろな要因によりルートが選択される状態だったと想像できる。個人的には、新幹線かがやきの本数が少ないことと、金沢の接続はあまり便宜が図られていないこともあり、米原回りの方が利便性が高いように感じていた。

しかし今回、金沢〜敦賀の新幹線区間が開通したことにより、

  • 米原ルートの方は所要時間が変わらないものの、米原に加えて敦賀でも乗り換えをする必要が生じた。
  • 金沢ルートの方は乗り換えが無くなり、しかも3時間を切るようになった。

と極端にパワーバランスが変わり、「福井行くなら北陸新幹線」という雰囲気に様変わりしてしまった。

世間はこの話題で持ちきりだったので、「東京から一本で行けるようになって便利になった」と片付けられ、福井の観光特集がテレビで連日放送されるなど、盛り上がりを見せた。福井に少なからずの縁がある身として、話題に上ること自体喜ばしいことである。ただ、必ずしも便利になったとは言えないと考えている。

①速達列車「かがやき」が少ない

東京から福井まで直通する北陸新幹線は、「かがやき」「はくたか」の2本である。「かがやき」は速達列車、「はくたか」は長野からほぼ全駅に停車する列車として設定されている。「東京〜福井が最速2時間51分」と宣伝されていたが、もちろん「かがやき」である。まあ、インパクトを残すためのアリバイづくりとして、停車駅を絞った「最速」列車を設定するのは常套手段であるので注意が必要であり、全体的には「かがやき」は3時間、「はくたか」は3時間30分といったところだろう。

さて、「かがやき」が常に運行されているのならば良いのだが、1日に運行されるのは9本のみである。しかも、その9本は朝と夕夜間に固まっている。繁忙期には臨時「かがやき」が運行され、日によってはそこそこの本数が設定されている。しかし、臨時列車は金沢止まりであって福井まで運行されない。この点、他の新幹線のように最速の列車がコンスタントに走っているダイヤを想像すると、少し拍子抜けするだろう。自分のスケジュールが「かがやき」の運行される時間帯とマッチすれば良いのだが、そうでなければ「はくたか」を利用せざるを得ず、意外と使い勝手が良くない。

②同じ電車に長時間乗り続けなければならない

福井までの所要時間は、「かがやき」で3時間。東海道新幹線の「のぞみ」なら、3時間あれば岡山の少し手前まで行けてしまう。個人的な事情になってしまうが、同じ列車に3時間も乗車し続けているのは体感的に長く感じるし、体力的にも苦痛である。先日金沢に行った時は、体が悲鳴をあげ、何度も座り直したりトイレに立ったりと苦痛を凌ぐのに大変であった。もし、「かがやき」が走っていない時間帯で、「はくたか」を利用せざるを得なくなった場合を考えるとゾッとする。

ただ、乗り換えがなく「3時間ゆっくりできる」から楽なのか、ずっと拘束されて辛いのか、これは人によって捉え方が異なるところだろう。もしかしたら、仕事や睡眠時間に充てたりしたい場合は、3時間というまとまった時間が確保できるのは助かるかもしれない(3時間あると流石に持て余しそうだが)。

③指定席が取りづらい

「かがやき」は全車指定席である。JR東日本の全車指定席の新幹線は、週末などはすぐに満席になるイメージがある。「かがやき」は本数が少なく、ポツポツと12両編成(普通車は10両)が走るのみなので、そもそもの座席数が少ないのだろう。東海道新幹線のように、本数が多く、柔軟に臨時列車も出る感覚でいると、「かがやきが満席で乗れない」という事態に遭遇しかねない。

また、「かがやき」が最速達列車であるため、福井よりも大きな需要を持つ金沢をはじめ、富山、長野から東京へ向かう人と座席を争わなければならない。長野は「はくたか」の利用価値もそれなりにあるが、特に富山や金沢など需要の大きい駅からの速達需要を、「かがやき」が担っていることになる。一番速達列車を欲する東京〜福井間の乗客も、その争奪戦に加わらなければならないのは億劫である。この前福井に行った時は、乗客のほとんどが富山・金沢で降りてしまい、金沢より先に向かう人は少数であったのを目の当たりにしただけに、釈然としない。

以上3点にまとめた。確かに「かがやき」で3時間弱で移動できるのは便利なことだし、上記のことをデメリットと感じなければ、十分に利便性を享受できると思う。いや、世の中的には「利便性を感じる」人が多数なのかもしれない。しかし個人的には「利便性の高かった米原ルートが不便になり、北陸回りを嫌々使わなければならなくなった」感じがして、憂鬱である。

※まあ確かに、ちょうど良い時間帯にあった「かがやき」で1本で行った時は、楽でしたけどね。富山ぐらいまでは。この点は、我慢強く座っていられない私の問題か。また、車両の乗り心地は北陸新幹線の方が断然良い。車両の差というよりは、新規建設なので線形(や路盤?)が良く、乗り心地において優位といったところか。

ところで、米原ルートのメリットは何だろうか。

1時間に1本、「ひかり〜しらさぎ〜つるぎ」の連絡列車がきっちりと運行されており、ダイヤ上の利便性が高い。また、乗り換えが2回あり、適度にリフレッシュできるので、体感的にはそこまで負担に感じるほどではないのかなあとも思う(1本に長時間乗って、その後2本ちょこちょこ乗る感じなので、1時間おきに2回乗り換え、とかぶつ切りにされるよりは楽では?)。ここまではメリットとして言えると思うのだが、接続する「ひかり」は意外に需要が高く、指定席が取りにくい危険性には気をつける必要がある。ただ、5月に行った際は「ひかり」で通そうと思うと満席でダメだったが、「ひかり」〜「のぞみ」の連絡で指定席を取れたので、まだやりようがあるかもしれない(注1)。

注1)米原に停車する「ひかり」は、新大阪、京都、米原、岐阜羽島、名古屋、豊橋or小田原、新横浜、品川、東京と停まっていく(朝晩を除く)。この「ひかり」は名古屋以東の中間駅に対する需要が高いらしく、満席で東京まで指定が取れない時でも、米原〜名古屋間では指定が取れることが多かった。名古屋まで出れば、「のぞみに乗り換え」という選択肢が広がるので、空いている列車を探して帰れる可能性もゼロではない(ここまで混雑すると、空いているのぞみも限られてしまうが)。5月に行った際は、まさにこの名古屋乗り換えのパターンであった。

ところが、米原ルートの方は、一つだけ明確に困った事態が発生してしまった。それは、割引切符を利用するためには、あらかじめJR西の券売機での発券が必要となる点である。EX-ICを利用して米原まで東海道新幹線を利用した乗客向けに、「しらさぎ」と「つるぎ」がセットになった割引きっぷが販売されている(正式名称:【e5489専用】[EXサービス限定]乗継きっぷ)。この割引切符が無いと、金沢ルートよりも値段的に不利になったように記憶しているので、できれば利用したいところである。この切符を利用するためには、あらかじめ発券をしておかなければならない。このことが、2つの問題を発生させている。

①発券する行為は、予約した列車のファイナルアンサーに当たるので、できれば乗車直前に発券をしたい。しかし、券売機はタイミングによっては長蛇の列をなしていることがあるため、直前の発券はリスキーである。そのため、今回は乗車の2日前に発券をしておくこととした。このことによって、旅程の変更が自由にできるという、ネット予約のメリットを潰してしまうこととなった。

②重要なこととして、「JR西の券売機」でないと発券できない。米原回りで東京から福井へ行く際、最初に通るJR西の駅は米原駅である。つまり、「接続の考慮された米原駅での乗り換え」の際に、発券処理をしなければならない。時間的には可能ではあるが、同じような人がいて券売機の争奪戦に敗れると、その時点でアウトである。5月に往路を北陸新幹線にしたのは、ちょうど良い「かがやき」があったのも理由であるが、この米原発券問題も理由の一つであった。ただし、福井駅発の場合は、福井がJR西の管轄なので問題にならない。これは「しらさぎ」を利用する場合のみの問題、というのも、サンダーバードの場合は全部チケットレス+ICカードで処理できるわけで、米原経由の場合でも同じようにできないものだろうか。

ここまで、今回のダイヤ改正に伴う変化と愚痴を書いてきたが、この状況は当分続きそうである。しかも、北陸新幹線が米原まで来ないことになった以上、敦賀と米原の乗り換えは永遠に解消されないことになる(別解:京都回り)。米原ルートも、JR西日本にメリットがなく、並行在来線の切り離しを嫌う滋賀県が存在し、米原に延伸したとて東海道新幹線へ乗り入れできる見込みがない以上、これから変更されることも全く期待していない(大阪方面にとっても、乗り換え駅が敦賀→米原とずれるだけで、分断されている状況の「解決」にはならないものですし、早く大阪まで繋げてあげてほしい)。東京〜福井で米原ルートを使い続ける人はだんだん稀有な存在になるのかもしれないが、本当に浮かばれないのは中京圏の方々である。北陸との結びつきは薄くなっていくのだろうか。

幸いにも、(対名古屋用とはいえ)米原ルートも存続しており、「こっちが出来たからそっちは廃止」などといったことが起こっていない。状況によって使い分けていけば良いわけで、選択肢があることは良いことである。こういったことを書くと、「福井に、北陸新幹線一本で行ってきた」みたいな記事を書いた時に「ネガキャン張っていたじゃないか、矛盾しているのではないか」と感じられるかもしれない。しかし、私自身は厳密な行動指針など持っているわけでもなく、状況とその時の気分で使い分けていくタイプなので、この先も普通に使う場面は出てくると思われる。世の中は絶えず前に進んでいくわけで、変わってしまったものは受け入れてうまく使えば良いのである。そういったタイプなだけに、「別に金沢ルートを盲目的に受け入れるのではなくて、全体を見てちゃんと比較した方が良いのではないか」といったことを言いたかったのが、本記事である。

最後に、筆者のこだわりとして681系/683系に乗れるルートを取りたいというものがあり、自身の考えにバイアスを与えていることを、公平を期すために付け加えておく。(高校の時、未知の土地に初めて一人旅をしたのが越後湯沢〜はくたか〜サンダーバード〜京都のルートだったので、思い入れがあるのです)

(おしまい)

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